さてさて、皆さんもご存じのとおり、トンチンカン先生は、東京での「春画展」の出会い以来、『美』について強く、さらに強く考えるようになってしまいました。春には瀬戸内海に浮かぶ直島と豊島への『美を求めて』の一人旅。そして、最近では、NHKの番組「日曜美術館」を毎回予約録画して気に入ったものを何度も見る状態になってしまいました。
ある時、録画したものの中に、青森県の2つの美術館の紹介番組があり、これを見た途端、「これは一度観る価値があり、いや、必要がある。」と思ってしまいました。本当に、外部からの圧力により、こうなってしまいました、ということです。
そして、今回、『みちのく一人旅』、となった次第です。それでは、『みちのく一人旅』珍道中をご覧あれ。
午前6時に我が家を出発しました。名鉄桜町前駅から名鉄に乗り、名古屋から新幹線のぞみで東京へ。そして、例のごとく一度トイレに行き、次は東北新幹線『はやぶさ』で一路、新青森駅へ向かいました。指定席はほぼ満員です。
乗り過ごしたら北海道まで行ってしまいますので、かなりの緊張感を持ち、眠らないように新青森駅まで乗りました。新青森で降りる人は相当居ましたが、まだ半分ほどの乗客が乗っています。
1 三内丸山遺跡にて
新青森駅へ降り、タクシー乗り場でタクシーの運転手さんに「青森県立美術館へお願いします。」というと、「時間があるのでしたら、お隣の『三内丸山遺跡』を見学してから美術館へ行った方がいいですよ。コインロッカーも美術館は100円ですが、三内丸山遺跡の方はタダですから。」というのです。それではという事で三内丸山遺跡を先に見学することとしました。(タクシー料金は三内丸山遺跡が美術館の手前にあることから低料金でした。)
三内丸山遺跡の資料館(この後方に広大な遺跡群があるのです)
入口を入ると青森県人らしい、ニコニコした優しそうな、りんごの様な若い女性が受付のカウンターにいましたので、ついその青森県人らしい素朴な笑顔の女性に「愛知県から来ました。」といいましたところ、その女性は「私は豊田市出身です。」というのです。なあんだ、愛知県人かといきなり反省し、「なぜ青森に就職しているのですか。」と聞いてみると、「訳ありです。」と即答があり、簡単にフェイントをかけられました。どうも、出鼻をくじかれた様子。
とは言うものの、気が合ったのか「シャッターを押しましょう。」と言って、貸衣装の『縄文衣装』を着せていただき、縄文土器の前で写真に納まりました。
そして、元気に野球場2つほど、いやもっと広い、広大な遺跡を2時間ほどかけて見学しました。
縄文衣装を身に付けて、豊田市出身の受付嬢にシャッターを押してもらう
中学生の社会科授業では「縄文時代は、人々は狩りをして生活をしており、獲物を追って移住生活をしていた。」と先生が絶対に間違いないという態度で説明した様子を昨日のように思い出します。中学生の私は、イノシシやシカを追って野山を駆け回る光景を浮かべたものです。しかし、三内丸山遺跡は縄文時代の人々ですが、1500年も長い期間定住し、魚(ホンザメ、ブリなど)やノウサギ、ムササビなどを獲って生活していました。そして、栗やクルミの木を植え、つまり植樹をして実を収穫するという「栽培生活」をしていたようです。中学生時代の先生は私たちに間違ったことを教えていたことになります。縄文時代をひとくくりにしてはいけないのです。地域の自然的条件に合わせ多様な生活をしていたようです。
『多様性』という言葉が重要なキーワードでした。目からウロコの感動を得ました。
2 青森県立美術館にて
三内丸山遺跡に荷物を預けたまま、隣の青森県立美術館まで200mほどの散歩道の様な細い砂利道を歩いて行きました。
丁度、『棟方志功特別展』を開催しておりました。版画の技術で女性の丸みのある頬の曲線、鼻筋のピシッとした直線、そして色彩、素晴らしい技術で私たちを魅了します。
棟方志功『弁財天妃の柵』(300円で購入したクリアファイルからのコピー)
でも私は、NHK番組「日曜美術館」で予習したとおり、美術館が所蔵しているシャガールの舞台背景を観ることが大きな目的の一つでした。シャガールは1942年、亡命先のアメリカでバレエ「アレコ」の舞台装飾に取り組み、全4幕からなるバレエの背景画を作成し、その内、3幕を青森県立美術館が収蔵しているのです。その大きさといえば、展示室がバレーボールやバスケットボール2面ほどの広さ、高さも体育館の様な高さです。その展示室の3面にその絵は壁面いっぱいに展示してありました(3枚の絵はいずれも大きさは縦10m、横15mです)。私は椅子に座って長い間観賞していました。こんなことを言っては申し訳ないですが、観客はほとんどいません。管内は少し冷え冷えとしており、思わず、「ハックション。」とやってしまいました。すると、館内に大きく響き渡り、「うわん~うわん~」とこだましているようでした。これはまずいと、周りを見渡しても誰もいません。ほっと安心しました。それにしても、大迫力の背景画でした。
次に、第2の目的『あおもり犬』です。地元青森県弘前市出身の画家・彫刻家奈良美智(ならよしとも)によって建築と一体化した作品 (コミッションワーク) です。屋外に設けられた高さ8.5mの犬の像です。純白で、ややうつむき加減の『あおもり犬』は何となく淋しそうでした。逆光でしたのでうまく写真に収められず。様々な角度で観ていました。
奈良美智「あおもり犬」一般的なアングルです。(ガラス越しの逆光)
そして、室外に出て再度様々なアングルで観ていました。とにかく時間はたっぷりありましたので、あちらから、こちらからと観ていると、なんと可愛い『あおもり犬』を発見しました。つまり『あおもり犬』の鼻の真下から仰ぎ見た、下の写真の姿です。『あおもり犬』は笑っているのです。
物は、様々な角度で観ると様々な姿を現します。ものの見方によってこんなにも違うのかと感心しました。三内丸山遺跡といい、青森県立美術館といい大変勉強になりました。感謝、感謝、来てよかった。
笑っているような『あおもり犬』(鼻の下あたりから仰ぎ見て撮影)
2日目は、トヨタレンタカーでプリウスをレンタルして目的地を巡回することにしました。
まず青森市内から、八甲田山麓を目指します。途中、強酸性の湯、千人風呂で有名な酸ヶ湯温泉でトイレ休憩しました。そしてまたまた走り、蔦温泉に到着です。
1 蔦(つた)温泉にて
この温泉は過去2回も宿泊した思い出の場所です。大町桂月が逗留したことでも有名です。入泉料800円を払い、長い廊下を進み、突き当りの男湯へ入ると、私一人です。こんなところで心臓麻痺や脳溢血でも起こしたら大変ですと思いながら静かな雰囲気でゆったりと湯船に浸かりました。温泉は湯船の下から湧き出ているのです。時々温泉のガスが下から「ポコッ、ポコッ」と小さな音を出して浮き上がってくるのです。湯船の中でオナラみたいに見えました。決して私ではありません。泉質は緊張感のある透明な湯で、やや高い温度でした。少し長く湯に浸かっていたので、湯疲れをしてしまいました。それにしても、湯船、洗い場、壁、天井の梁など周りは全てヒノキで工作してあり、旅情豊かな温泉でした。
蔦温泉正面玄関、右が温泉、左が宿泊施設です
湯疲れしたので、玄関前の木製ベンチで腰を下ろして、しばしの間、ブナ林を通り抜けて来たそよ風に当たりながら新緑を堪能しました。
それから再び、レンタカーを運転して、(予定時間を過ぎているため)猛スピードで十和田市現代美術館を目指しました。
2 十和田市現代美術館にて
十和田市現代美術館は市役所、保健所などが並ぶ官庁街に有りました。国の出向機関の統廃合などで空き地が目立つようになった市の中心にある官庁街を活性化することを目的に、何か人が集まる施設を作りたいという思いから計画されたようです。そこは、官庁街通り全体を美術館と見立て、多くのアート作品が屋外展示されていました。
十和田市近代美術館のエントランスロビーにて(右が入口、左に受付がある)
まず、現代美術館に行きました。『現代』という名前のとおり、入り口の床面は様々な蛍光色で原色の線で出来上がっています。受付の人から「この床も芸術作品です。作品名は「ゾボップ(Zobop)」で作者はジム・ランビー(イギリス)です。」と説明がありました。写真撮影はここまでで、これから先は撮影禁止ですので紹介できないのが残念ですが、光あり、音あり、映像ありで、私たちが考える額縁におさまった絵ではないのです。特に感心したのが「スタンディング・ウーマン(立っているおばあさん)」ロン・ミュエク(オーストラリア)です。高さ4メートル近くあるこの女性像は、見る者を圧倒する迫力でたたずんでいます。憂いを含んだ風情はあまりにもリアルで、大きすぎるサイズとのずれが、奇妙な感覚を覚えさせました。
とにかくのんびりした一人旅ですので、長い時間をかけて隅々まで美術館を観て回りました。そして外へ出ると、何やら若い女性が野外展示物のフラワー・ホースの前で写真を撮ろうとしています。自分のカメラを旅行カバンに立て掛け自分を写そうとしています。「シャッターを押しましょうか。」と声をかけると、ニコニコして「お願いします。」と明るい返事です。やはり一人旅はいいなぁ~、と思いつつ、アングルを変えて数回シャッターを押しました。そして、私も撮ってもらいました。なかなかいい雰囲気です。以下、主な会話の状況です。
私 :「私は愛知県から来ました。」
女性:「私は福島です。」
私 :「交通手段はどうですか。時間がかかりましたでしょうね。」
女性:「東北新幹線の八戸で降り、ここまでバスでした。これから八戸に戻り、今日中に青森に行きます。明日は青森県立美術館です。」
私 :「私は昨日、青森県立美術館を観てきました、良かったですよ。三内丸山遺跡もいいです。今日はこの後、奥入瀬、十和田湖を走り、大湯ストーンサークルを見て、弘前経由で青森へ帰ります。レンタカーです。」
女性:(乗せてもらいたいような気持で、目をパッチリあけて)「そうですか、奥入瀬はまだ行ったことはありません。いいですねぇ。」
私 :(ここはちょっと我慢して)「それでは気を付けて旅を続けて下さい。さようなら。」
と言って別れました。
「フラワー・ホース」チェ・ジョンファ(韓国)の前にて、福島の女性にシャッターを押してもらいました。
本当は一緒にドライブをしたいところですが、そこは『おじさんの控えめさ』グーッと我慢しました。何かあると困ってしまうのです。例えば、新聞記事に『自称コンサルタント会社社長、みちのくでご乱心』とか、『これぞ老害、みちのくでセクハラ』なんて記事が出たら大変です。技術士の資格、行政書士の資格など全てはく奪、または返上となりかねません。『男はつらいよ』と泣く泣く一人旅をつづけました。
屋外展示物 ファット・ハウス(デブの家)
若い女性と今生の別れをしたのち、野外展示物の『ファット・ハウス』を観ました。この作品は見た目には非常にユーモラスなものですが、説明では、「太るという生物としての仕組みを、機械や建物に重ねることで、『私たちの当たり前』を裏切ります。通常、家は太ることはありません。生活の基準となる価値や常識が、非常に曖昧なものであることを、私たちに教えてくれているようです。」と書いてありました。「価値や常識は自分が(勝手に)作ったもので、決して他人に当てはめることが出来ないものである。」という実感がしてきました。またしても、目からウロコの十和田市現代美術館でした。
3 大湯ストーンサークルにて
その後、一人で運転して、奥入瀬渓谷、十和田湖畔を走りました。奥入瀬渓谷は昔の賑わいはありませんでした。登山装備の老夫婦や女性同士のグループばかりです。十和田湖も、観光船が淋しげに係留されていました。ホテルの人に聞きましたら、「最近は海外旅行ばかりで、青森には来ていただけないのです。」という返事でした。淋しい限りです。
十和田湖畔を抜けて発荷峠を越え秋田県に入りました。2時間ほどのドライブで大湯環状列石(ストーンサークル)に到着です。大小の川原石が円形、楕円形などに組み合わされた不思議な遺跡です。石の配置が夏至の日没方向を向いているなど、この時代にすでに天文学的な知識があったようです。やはり縄文時代の遺跡でして、祈りと祭の道具や数字を意識したもの、女性の姿をしたものなど、発掘されたものは展示室にいっぱい手が届く近さで展示されています。
大湯環状列石と一緒に(福島の女性とツーショットのつもりで)
『大湯ストーンサークル館』に入ると、非正規社員の様な、とっくに定年を過ぎた様なおばさんが、「300円です。」と言い、入場券と施設案内のリーフレットを渡してくれました。やはり見物人は私一人でした。縄文土器、矢じりなどの出土品をゆっくり見ました。縄文時代独特の火焔型土器がたくさん並べられ、非常に迫力のあるものでした。その後、野外のストーンサークルを見て回りました。そして帰ってくると、そのおばさんは、「もう一度入っていただいていいですよ」、という内容の東北弁で私に話しかけてくるのですが、何せ東北のど真ん中、イントネーションも独特な東北弁でよく意味が分からなかったのでした。私が展示品の写真を撮ってもいいですかと言いますと、「はい。」と言い、そして屋外へ誘導され、ストーンサークルの前まで来てシャターを押していただきました。お互い意味が十分伝わらない中での結果、上の様な写真になったのです。
その後、東北自動車道碇ヶ関から、弘前を経由して青森に帰りました。途中自動車を運転しながら見た『岩木山』の姿は、山すそから頂上まで雲一つなく、夕日を背景に灰色のシルエットが素晴らしく綺麗で、荘厳で素晴らしかったのを覚えています。まさに堂々とした『津軽富士』でした。サービスエリアでの休憩時に写真を撮ろうと思ったのですが木々に邪魔をされ、良い写真を撮ることができなかったことが残念でした。
3日目は、いよいよ青森ともお別れです。新青森から新幹線に乗り、お昼に上野駅に降り立ちました。夕刻、息子一家と食事をするのです(もちろんお代は私持ち)。時間がありましたので、国立西洋美術館で開催されているカラヴァッジョ展を観ることにしました。入場券を買うのに長蛇の列、館内に入ってもまじかに見ることが出来ないほどの混雑ぶりです。青森で風邪を拾ってきたのか、はたまた、都会の空気が汚れているのか、思わず「ハックション。」とやってしまいました。もちろん、全く、館内に響き渡り、こだますることはありませんでした。ただ、館内にいる数人の人からいやな目線が飛んできたのです。クシャミの犯人は私ではないという素振りで、次の展示物に移動しました。
カラヴァッジョ展のリーフレット
青森とは全く違う環境の中で一生懸命観て回ったので疲れがドッと出てきました。やはり、美の観賞は静かな雰囲気がいいなぁ、とブツブツ言いながら美術館を後にしました。そして、夜は孫と息子夫婦で楽しい食事会をしました。そして翌日は孫にお祭りで着る可愛い浴衣を買ってやり家路につきました。
今回の旅はNHK「日曜美術館」で紹介された言葉『頭で考えることはやめて、心と体で感じるアートの旅』そのものでした。本当に充実した『みちのく一人旅』でした。満足、満足。感謝、感謝。
旅は楽しいものでしたが、やはり疲れます。私は2ヵ月前に健康状態を確認するための血液検査をしてもらいました。その結果を聞くためにいつもの開業医(医師は高校時代の同級生です)の所へ行き、体調の不具合があるか診察していただき、そして血液検査の結果を説明してもらいました。
医者:「血液検査の結果は全項目にわたって『異常なし』です。つまり、正常値範囲内という事だね。さかべ君、この状態で規則正しい生活をしてね。薬はいつもの痛風の薬と軽い高血圧を抑える薬を処方するよ、いつもと同じ内容だから、続けてね。」
私 :「有難うございます。いたって健康に留意した生活を送っている結果と思うよ。先日も、青森県へ一人旅をしてきました。」
(そして、診察室で次の患者を気にしなく、『みちのく一人旅』の話を延々5分超、話しました。)
私 :「あとは、ボケ防止が大切だね、オレオレ詐欺など会わない様にしないといけないねぇ。」
医者:「オレオレ詐欺だけでなく、結婚詐欺にも会わないように気を付けなきゃ、だめだよ。」
私 :「結婚詐欺は、大丈夫。血の気は多くないよ。」
医者:「え~っと、赤血球の数は・・・・。」
とまあ、こんなトンチンカンな会話をして、診察室を出ました。三内丸山遺跡の豊田市出身の受付嬢の話、十和田市現代美術館でカメラのシャッターを押した福島の女性の話は、全くしなかったはずですが・・・。友人の医者は、私があまりにもウキウキと旅の話をしたので、私のニコニコ顔と鼻の下の長さを見てその様な発言をしたのではないかと考えました。どうも私は、根が正直ですので、つい顔に出てしまうのです。大いに反省しなければなりません。
(終わり)